さすらい2日目。

7時に起きる。
ひとり旅としてはものすごい快挙。

船見坂から町を見下ろす。
港へ向かう、海で働く人たち。

線路の残った散歩道、北運河、北のウォール街
などなど、朝の小樽を満喫。
北運河は、観光地観光地していなくて、
係留してある船が静かに水に揺られながら、
何か語りかけて来そうな、それでいて寡黙なような、
なんともいえない存在感があった。

観光案内所のそばで運河を見下ろすと、
なんと無数のクラゲが…。
ゆらゆら漂う姿にクギヅケ。

小道には、真っ赤なナナカマド。
地面も真っ赤な秋模様。
そのナナカマド越しに見る運河が、
せつなくなるほどによかった。

ふと見つけた“アルチザン”という喫茶店に入ってみる。
濃いコーヒーがとてもおいしい。
窓の外には「小樽市稲穂」の住居表示。
ふはぁ…。ほっ。

ばたばたチェックアウトして、荷物をロッカーに入れて、
都通り商店街の横道を探検しながら、
お目当ての喫茶店の開店を待った。
「頭上氷雪にご注意願います」
という看板がとても新鮮。北国だなあ。
大きい道路に出るたびに坂を見下ろすと、
光る海がちらりと見えるのだった。
この景色が私にとっての「小樽」になるんだろうなと思った。
尾崎豊の「坂の下に見えたあの街に」を
口の中でフムフムと口ずさんだ。
ピアノとサックスと明るい声がなんとも大好きな曲。

そして“純喫茶 光”へ。
昭和8年にできた、一番来たかった喫茶店
「見学のみの方はお断りします」
という文字を見ながら、緊張気味に店内に。
古いランプや昔使っていたと思われるコップが、
整然とただそこに居て、とても重厚で優しいかんじ…。
本棚にあった「ポオ詩集」を手にとってみる。
ここでは古い本を読むのが似合っている気がしたから。
内容はわからないが…。
厚切りトーストに、バターもジャムもたっぷりつけた。
濃いコーヒーがまろやかになった。
あぁ…。
一日中でも座っていたいお店だった。
また来たい。

倶知安までの電車は、
のんびりのんびりカタコトとかわいらしく走る。
窓をふと見ると、ガラスが二重だった!
さすが北国…。
“本日はJR北海道をご利用いただき…”
というアナウンスひとつとっても、新鮮なのだった。

キャリーバッグをごろごろ転がして改札に行くと、
そよさんがにこにこと手を振って迎えてくれた。
「2年ぶり?」
「いや、3年ぶり?」
「とにかく久しぶり♪」
と再会を喜んだ。

お寿司屋さんの前で車から降りると、
小樽よりもずっと涼しかった。
ニセコにまで来てしまったのかと思うと、
うれしいけどまだ信じられなくて、
そわそわと落ち着かない私だった。

お寿司はサイコウ。さすが北海道。
特にホタテ…。
苦手なハズのうにもおいしかった。
つーんとくるワサビに泣いたら緊張もほぐれ、
ようやくそわそわがおさまったのだった。

山を眺めながらドライブ。
紅葉のごく初期、というかんじ。
雪の重みで形を変えながら育ったという木々の枝は、
しなやかに曲がっていろんな形をしていた。
柔軟で強くていさぎよくて、とても好きだ!と思った。
気がつけば、そんな木々ばかり目で追っていた。

地図やガイドブックで見ていた地名が、
目の前の道路標識にどんどん現れるのが、
とてもうれしくて不思議でどきどきした。

「ふたごの木」を見た。
ほんとうにふたごのようだった。
写真を撮るのも忘れてじっと見た。

そよさんがよく訪れるという「神仙沼」へ。
てくてく歩いては写真を撮り、
植物の名前を教えてもらい、
人なつっこい鴨をひとしきり観察し、
合間合間で、よい空気に深呼吸し、
またてくてく歩き、お互いの写真を撮り、
沼のそばにしゃがんで、水の音に心うるおったり。
ほんとうに静かで水の音だけ。
はぁ〜。

“いやされる”
“心の洗濯”
“リフレッシュ”

…どの言葉を当てはめても陳腐に思えてしまうような、
言いようのないぜいたくな感じ。

どうも、どこに行ってもゆっくり歩けない私は、
やはり今日も相当なはやさで歩いていたらしい。
うわははは!
それにしても、
歩いたあとのジュースって、ほんとーにおいしい。

楽しみにしていた露天風呂へ。
駐車場のコスモスがきれいに咲いていた。
台風の影響を受けたコスモスも多いらしく…。
私の家のガラスを割った台風18号が、
こんなに離れたところでも猛威をふるっていたとは。
木もたくさん倒れていたし…。

木々のカホリを吸い込みながら露天風呂。
赤いナナカマドがとってもかわいい。
私はどうもナナカマドがすごく好きらしい。
と、今回の旅で気がついた。
さんざんつかりながらしゃべり、
ふたりとも立ちくらみながら退散。

休憩室のテレビでは大相撲。
ちょうど高見盛の取り組みだった。
がんばれー!

ペンションへ向かいながら山を見ると、
到着したときよりも紅葉がすすんでいた。
ふたりとも、はしゃぐ。
気のせいなんかじゃないはず。たぶん(笑)。
なんてすてきな。

今日お世話になるのは、
「吟渓」というそよさんのお友達のペンション。
こぢんまりとかわいいたたずまいに、心は乱れるのだった。
にこにこと迎えてくださったおふたり。
こうやって出会う人や、
景色のひとつひとつや、
ペンションの中の木の匂いとか全部が、
私の「ニセコ」になってゆくんだなあ…。
と、ポエミィな気分もエスカレイト。

私が泊まる部屋の名前は「きじばと」。
ハイジみたいなかわいい部屋。
窓の外は木立。
あぁ…。

「ごはんできましたよ〜」の声に
いそいそと階段を上るハラペコ二人組。
ワインのような味の(しかし甘ったるいわけではない)
おいしい日本酒でカンパイ。
ごはんは何もかもがおいしくて、
「おいしいねおいしいね!」
と、接続詞のように何度も言い合った。

いま思い出してもおなかが空いてくる…。

コーヒーをおかわりしながら歓談。
そして、そよさんは帰宅。

「何か寝酒でもいかがですか?」
と吟渓さんのご主人。
金賞を受賞した大吟醸をいただく。
ペンションの周りにやってくる鳥や動物の写真を見ながら。
あー、おいし…。
雪に残る動物の足跡、私も見てみたい。
次はゼッタイ真冬に来たい。

部屋に戻り、
さてニュースでも見ようかな?と思ったけど、
せっかくの静寂なのだからテレビはやめた。
あれこれ考え事をしていたら、いろんなことを思い出した。
「ごめんね…」とナゼだか思った。
誰にあやまっているのだろう。
不甲斐なかった自分が、
よくがんばった自分に、
あやまりたがってるような気もした。

そよさん長女が貸してくれた「るきさん」を読む。
たわいなくておもしろくて、
くすっ。と、時にあはは。と笑う。

とても静かで、外は真っ暗で、
必要最小限の持ち物だけがある部屋で、
シンプルなるきさんを読んで笑っているこの時間が、
とてもゼイタクに思えて涙が出そうだった。
「寂しさ」も、度を越すとほんとうにさびしいけど、
ほんの少しの寂しさは、
ぜいたくなひとときには欠かせないものだなあと思う。

読んでいたら眠くなったので寝た。

***今日の一曲
     坂の下に見えたあの街に  〜尾崎 豊

***今日の気温
     17.7℃  8:20(小樽運河