北へひとり旅。

“バースデイ早割で北海道に!”という
2年越しの願いをやっと実行したのだった。

チケットに「お誕生日9月19日」と
わざわざ明記してあったので、
搭乗口で半券をもらうときに音楽が鳴って
“おめでとうございます♪”とか、言われるのかな、
と思ったけど何もなかった。

離陸の時の加速が好き。
ぐわーん。と背中がシートに押し付けられて、
地面からどんどん離れていって、
「もぅ戻れない」と覚悟を決める。(オオゲサ)

飛行機は慣れてないこともあって、
どんなに楽しみな旅でも出発前は、

もし落ちたらどうしよ。
どうせ落ちるなら帰りにしてくれ。
でも親より先に死ぬことは避けたい。
もしもの時に連絡してほしい人リストを作ろうか…。

とか、真剣に考えるんだけど、
いざ乗ってみて、ほかのお客さんや、
荷物棚をそっと閉めながら微笑をたたえて機内を歩く、
客室乗務員のみなさまを見ていると、
「考えすぎだった」
といつも思うのだった。

翼の王国」に
“お誕生日の方へ”というペイジがあったので
「プレゼントをご用意していますのでお申し出ください」
と書いてあるのかと思ったら、
「お誕生日はANAのバースデイ早割で旅を!」
を書いてあった。
…なるほど。
運賃が12000円になるだけで充分プレゼントか。
乗務員に機内で祝福してもらうだなんて、
あつかましい考えだったのかとようやく気づいた。

コンソメスープを飲みながら、
地図を見てガイドブックを見ていたら、
“小樽にいらっしゃるんですか?”
と、美しい客室乗務員のおねいさん。
“北海道は初めてなんです”と言うと、
空いていた隣のシートに座って色々教えてくれた。
“楽しんでくださいね(笑顔きらり)。
 ドリンクのおかわりはいかがですか?”
と優しくいうので、
小樽のカフェめぐりで珈琲三昧になるのを考えて、
機内でコーヒーは飲むまいと思っていたのに、
“じゃーコーヒーください♪”
とつい言ってしまった。

窓の外はなんともいえない雲。
頭の中を流れるのは、ヴァネッサ・カールトン
“A Thousand Miles”のあのきゅん、とするピアノ。

羽田行の飛行機とは雰囲気がかなり違って、
“今から遊びに行きますうれしいで〜す!”
というオーラを噴出している人が多い。
ご両親をビデオに収める若い夫婦とか、
「○○は途中で見えますか?」
と尋ねるおじさんに、
窓のそばで地図を広げて説明する乗務員さんとか、
なんとも言えずいいかんじのゆるい一体感。

やがて、初めて見る北の大地。
頭の中を流れるのは
♪とーてもがまんがーーーーーーーー!!!
  できなかぁったよーーー
と、サブちゃんの“函館の女”になってしまった。

空港からは、一刻も早く移動したかったので、
北の外気に触れることなくJRへ。
手を洗ったときの水の冷たさに、
外の涼しい空気への期待感は高まるのだった。

まっすぐ小樽へ向かおうかと思ったけど、札幌で下車。
デパートが隣接する様子と、人々の賑わいかたが、
名古屋と京都に似ている気がした。

大通公園へ。
ベンチに座って、くつろぐ人たちに混じってみる。
とうきびの屋台があって、
左手には北海道新聞社のビルがあって、
あぁ、ここは北海道なんだなあ。

大丸で「イノダコーヒー」へ。
外を見下ろしながら“アラビアの真珠”。
最初から入っているミルクの割合が好き。
スタンプラリーの目標達成?したので、記念品をもらう。
(違う県のイノダコーヒー2店舗のスタンプを集めるのです)

小樽へ向かう電車からは海と夕焼けが見えて、
ぅわー、遠くまできたなぁ…、と思った。
なんたって、乗っているのは函館本線

小樽駅
寒い!
これこれ、この寒さ。うれしい。
チェックインして、ジャケット着て、
スカーフをぐりぐり巻いて小樽の町へ。
茶店“ろーとれっく”へ。
濃いコーヒーがおいしい…。
木の床に油をひいたばかりらしく、
その匂いのなつかしさとあいまって、
ようやく旅気分が足先にまで回った気がした。

古い建物を見ながら歩く。
細い道は人がほとんど歩いていなくて、
少し寂しいような身の引き締まる思いだった。
秋が大好きな私でさえ、寂しく感じる瞬間があるのに、
秋冬が苦手な人の心境はいかばかりか。

父からの“誕生日やなぁ”の電話はもうない。
毎年あったものがないのは、
やっぱり寂しくて何か足りなくて、
去年とは時代が違うことを思い知る。

そよさんオススメのお店に、えいっ。と入って晩ゴハン
薄暗くて居心地よくて、
ワインもカレーもサラダもチーズもコーヒーもおいしかった。

ホテルの窓から見る街灯は、
ぼやん、と濃いオレンジ色だった。

***今日の一曲
     A Thousand Miles 〜Vanessa Carlton

***今日の気温
     17.2℃  19:20(小樽運河